それでも虫音は鳴り止まず「野火」

塚本晋也監督の「野火」。言わずと知れた大岡昇平の同名小説を映画化した作品。

昨年話題になっていたものの未見だったので、ちょうど上映していた渋谷のアップリンクへ赴いた。劇場はほぼ満席。

塚本晋也自身が演じる主人公をはじめとした日本兵たちはみな痩せて泥に汚れ疲れ果て、眼光だけが白くぎらついている。

一方、ジャングルの木々や花、太陽の光、そして虫の声は彼らの生気をすべて吸い付くすように生命力に溢れ、ざわめいている。

というのが前半。

作品のクライマックスであろうシーンで彼ら兵士の肉体性が溢れ出す。

それは敵に銃撃を受けるシーン。肉片が飛び散り、血が吹きだし、内臓がむき出しになる。その色、臭い、質感がショッキングなほどに生々しくわたしたちの現前にあらわれる。

タイトルの「野火」とは彼らを悉く焼き尽くす生き物のような炎。その音、熱、運動が現地から生還した主人公の脳裏から消えることはない。

(それからリリー・フランキーの、男の嫌な部分を寄せ集めたみたいな先輩兵士役の怪演ぷりが見事だった。あれ、この人の本職なんだっけ?)

「戦争」というものがどういうものか、そして、「戦争」があらゆる局面で語られる時に意図的あるいは無意図的に隠蔽されるものが何かを、戦後70年のこの時期に提示することに成功した塚本監督に敬意を表したい。

などと思いながらマークシティのバーゲンでおそろしく素敵なワンピースを4割引で購入し帰宅。途中、若者たちでざわめく街と、鬱蒼としたジャングルとそこに響く虫の声、そして生々しい血の臭いとのどちらが現実か少し分からなくなった。

 


映画『野火』特報