希望はいつも上のほうから「恋人たち」
忘れないうちに昨年末に観た映画のことを。橋口亮輔監督の新作「恋人たち」。調べてみると「ぐるりのこと」以来7年ぶりの長編とのこと。
昨年観た映画の中でもベスト3に入る傑作。男女3人の群像劇で、それぞれが少しずつそれぞれの人生に関わりながら物語が進んで行く。
3人に共通するのは現状の生活に対する鬱屈。基本的には抑えたタッチでそれぞれの日常が描かれていくが、特筆すべきはオーディションで選ばれたという3人の俳優の存在感だ。とりわけ美しくもなく生活の贅肉がまとわりつく身体のリアリティ、その滑稽さと愛おしさ。そして3人の登場人物はいずれもがどうしようもなく弱い人間なのである、わたしたちと同じように。
この映画のタイトルは「恋人たち」であるが、3人が3人とも苦い(というにはあまりにも壮絶な体験をする”彼”もいるけれど)別れを経験することになる。でも(あるいは、だからこそ)、「恋人たち」という甘い予感、記憶を抱きしめて日常を生きていくしかないのだ。
ラストシーンの美しさは映画史に残るだろう。この最後の1ショットへと向かって3人の疾走はゆるやかに収束していく。そう、希望はいつだってわたしたちのあずかり知らぬ上のほうからやってくるのだ。それもわたしたちが予想もしない時に。
それにしても橋口亮輔はこの映画の主題、人間のやりきれなさとそこからの再生を語る上で、何を描いて何を描かないでおくべきか、その取捨選択のセンスが卓越していると思う。