映画

希望はいつも上のほうから「恋人たち」

忘れないうちに昨年末に観た映画のことを。橋口亮輔監督の新作「恋人たち」。調べてみると「ぐるりのこと」以来7年ぶりの長編とのこと。 昨年観た映画の中でもベスト3に入る傑作。男女3人の群像劇で、それぞれが少しずつそれぞれの人生に関わりながら物語…

それでも虫音は鳴り止まず「野火」

塚本晋也監督の「野火」。言わずと知れた大岡昇平の同名小説を映画化した作品。 昨年話題になっていたものの未見だったので、ちょうど上映していた渋谷のアップリンクへ赴いた。劇場はほぼ満席。 塚本晋也自身が演じる主人公をはじめとした日本兵たちはみな…

脱ぐ男と晒す女 『極東のマンション』

2週連続で東京現代美術館へ。 目的は企画展「東京アートミーティング」の関連イベント、松江哲明スクリーニング&トーク。 真利子哲也監督の『極東のマンション』、松江哲明監督の『カレーライスの女』が上映された。いずれも2000年代前半に撮られた30分程度…

寓話の強さと弱さ『独裁者と小さな孫』

イランの映画監督、モフセン・マフマルバフの『独裁者と小さな孫』。 おそらく世界中を騒がせたパリのテロ事件以前に製作されたこの作品は現在の世界の「気分」を的確に捉えている。 観客をこの作品の物語へと強く引き込む装置が「寓話」である。この地球の…

雨の日のプールに「ガンモ」

久々に「ガンモ」を観たけれど、やっぱりすごくよくて、この良さは何なのだろうと考えてしまう。ラストがすごく泣ける。私が好きな人にはこの映画を好きであって欲しいと思う。 猫が目撃されてから殺されるまでの物語であるというのは今回気付いた。あの可愛…

濡れた黒 『カビリアの夜』

ジュリエッタ・マシーナ!よく動く大きな目と全身から生きるエネルギーを発散させているような仕草の数々。子供のようにてらわず奔放で魅力的な女性である。彼女が主演し、彼女の夫でイタリア映画の巨匠、フェデリコ・フェリーニ(関係ないけど「フェデリコ…

痕跡についての映画 『悪い女』

海辺で二人の女がすれ違う。その瞬間に片方の女が持っていた何かが砂の上に落ちる。それが何なのかと目を凝らす私たちの前に提示されるのは濡れた砂の上で力なく跳ねる金魚のアップショット。その後、もう片方の女が落ちたビニール袋に鞄の中から出したミネ…

反ハリウッド的ハリウッド映画 『ミスト』

私はいわゆる「衝撃のラスト」という言葉で分類されるような映画が好きでよく観る。『ユージュアル・サスペクツ』とか『ゲーム』とかそういう感じのもの。 ほんの数カット、時には1カットで始まりからそれまでの時間積み重ねてきた物語の意味ががらりと変わ…

光の厚み 「ストローブ=ユイレ あなたの微笑みはどこに隠れたの?」

先日アテネフランセで前々から気になっていた映画、ペドロ・コスタの「ストローブ=ユイレ あなたの微笑みはどこに隠れたの?」を観た。ストローブとユイレの微笑みが一体どこに隠れたのかは結局分からずじまいだったが(何でこんなタイトルなんでしょう)、…

メタと8mmと夜のネオンと「闇打つ心臓」

先日「闇打つ心臓」という映画を観た。長崎俊一が1982年に製作した同名の8mmフィルムの映画を自身でリメイクした作品だ。 すでに存在する作品をリメイクするやり方としていくつかの方法があるけれど、長崎はその中でもかなり野心的な方法を用いた。リメイク…

映画史に残る愛の告白「気狂いピエロ」

秋だからみんな黒もしくはグレーの服を着ていて何か重い感じ。 君の乳房と太ももは感動的だとフェルディナンは言ったが、浅い眠りの後の夕暮れを少しばかりすぎて薄暗くなった海辺でふいに発せられたその言葉は、愛の告白の場面として間違いなく映画史に残る…

キュウリを噛む音がやけにリアルだった「ある朝スウプは」

「ある朝スウプは」は2005年のPFFでグランプリを穫った作品だ。 木漏れ日が女の顔に当たってゆらゆら揺れていた。ラストの、とても長い食事のショットは女の「他人だものね」という独り言で終わる。漬け物を奥歯で噛む音はしかし鳴り止まず、それだけが希望…