濡れた黒 『カビリアの夜』

カビリアの夜 [DVD]

ジュリエッタ・マシーナ!よく動く大きな目と全身から生きるエネルギーを発散させているような仕草の数々。子供のようにてらわず奔放で魅力的な女性である。彼女が主演し、彼女の夫でイタリア映画の巨匠、フェデリコ・フェリーニ(関係ないけど「フェデリコ・フェリーニ」という語感がすごく好きだ、おいしそう)が監督した『カビリアの夜』。先日、ジュリエッタ・マシーナが本作について語っているインタビューをたまたま読み、久々にすごく観たくなったのでDVDを借りた。

フェリーニの映画はいつも音楽が素敵で重厚で気が利いていて、見終わった後に人生ってそう悪くないなという気持ちにさせてくれる。この『カビリアの夜』も例に漏れずその通りで、ジュリエッタの魅力もすごく感じられて(マンボを踊るジュリエッタの生き生きとしたあの表情!)私の大好きな映画だ。

この映画では素敵な瞬間は必ず夜にある。仲間とのバカ騒ぎや俳優とのゴージャスなひと時やラストのあのシーン。この映画の夜は晴れているのにどこか湿り気を帯びていて、濡れたような黒が画面を覆う。

逆に昼は光線の具合とかの関係でどんよりしている。彼女の今までの人生を象徴するように。

今回、物語が私自身の私生活とも変にリンクしていて、無意識にカビリアに自分を投影して礼拝のシーンとラストで2回泣いてしまった。映画や本って見る度にその時の自分の状況とか感情によって異なる鑑賞体験になるんだなあ。誰かが言っていた「良い作品と良い鑑賞経験とは全く別物である」という言葉を思い出した。今日この映画を観たことが私にとってすごく意味のあることのような気がする。

ラストのショットは本当に素晴らしくて、黒い涙を一筋流すカビリアの笑顔が観客である私たちの方を向いた瞬間に、陳腐な表現だけれど、自分の存在の全てを肯定されたようで幸せな気持ちになる。「カビリアの夜」(このタイトルもまた秀逸)の「夜」とは人生においてごく稀にある、本当に幸せな一瞬一瞬のことなのではと今は思う。