反ハリウッド的ハリウッド映画 『ミスト』

ミスト コレクターズ・エディション [DVD]

私はいわゆる「衝撃のラスト」という言葉で分類されるような映画が好きでよく観る。『ユージュアル・サスペクツ』とか『ゲーム』とかそういう感じのもの。

ほんの数カット、時には1カットで始まりからそれまでの時間積み重ねてきた物語の意味ががらりと変わってしまうというこの「衝撃のラスト」という機能は、不可逆的でショットの積み重ねにより物語を語っていく時間芸術である映画の真骨頂だと思う。

この映画もTSUTAYAでそのキャッチコピー付きで紹介されていたので借りて観てみた。原作スティーブン・キング、監督フランク・ダラボンのコンビは名作『ショーシャンクの空に』を作ったコンビだから外れないと思ったし。

観た感想としてはなかなか良くできた映画だと思った。ただ、救いようのないラストで後味はとにかく悪い。この後味の悪さ故に正直言って、もう2度と見たいとは思わない。

舞台はアメリカの郊外のとある町のスーパーマーケット。ここで私はジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を連想してしまった。でもそれよりは渋いというか落ち着いたテイスト。

観ていてすぐに気付くのは、この映画の映像の被写界深度の異常なまでの浅さだ。被写界深度が浅い映画としては最近観た中ではガス・ヴァン・サントの『パラノイド・パーク』が印象的だったけれど、『パラノイド~』はいわゆるミニシアター系の映画で、ちょっととがった人達が見るから浅ーい被写界深度で実験的なことをしていても特に何も思わなかったけれど、この映画は一応ハリウッド映画で、ここまで浅い被写界深度にはちょっと驚いた。でもその浅い被写界深度が霧の中に包まれている閉塞感とか人々の不安とかを表していてすごくしっくりきていた。

それから演出が見事。特に物語の始めの方で、悪そうな男の人が腰にロープを巻いて不気味なクリーチャーがうじゃうじゃいるであろうスーパーマーケットの外へ果敢にも出て行くのだけれど(もちろんこの男の人はクリーチャーに殺される。)、その場面がロープ1本の動きのみで完璧に語られていたのはすごかった。それから、ラストのピストル発砲する前後。ハリウッド映画なのにカウリスマキみたいで渋い!異常な状況下での人々の残酷な群集心理みたいなもの(これも私の大好物)も描かれていて作品に奥深さを与えている。

この映画はことごとく「ハリウッド的」なお約束=フラグをへし折って物語が進んでいく、フラグクラッシャーな映画だ。真っ先にスーパーマーケットの外へ飛び出していった女は結局助かっているし、主人公と一悶着あってスーパーマーケットを出て行った黒人男性の結末は分からずじまいだし、悪い狂信者の女はあっけなく死んじゃうし、主人公の結末はあんなだし。

テーマはいわゆるキリスト教的な神の領域を侵す人間の傲慢さへの警鐘だと思う。時代的背景を考えると、ここでの人間はアメリカにも代替可能で、「アメリカよもうちょっと謙虚になりなさい」というメッセージも読み取れる、だったらあの最後に出てくる戦車やソルジャー達をあんなに荘厳に描いちゃっていいのかなとは少し思った。

惜しむらくはこの1点。事件発生の原因である霧は視界を制限し、その中に何があるのか分からない薄気味悪い恐怖を喚起させます。ただ、実際にクリーチャーが見えちゃうと、そのCGの不自然さとかデザインのイケてなさなどが露呈してしまい残念だった。見えそうで見えない位が一番怖いんだよね。