光の厚み 「ストローブ=ユイレ あなたの微笑みはどこに隠れたの?」

あなたの微笑みはどこに隠れたの? [DVD]

先日アテネフランセで前々から気になっていた映画、ペドロ・コスタの「ストローブ=ユイレ あなたの微笑みはどこに隠れたの?」を観た。ストローブとユイレの微笑みが一体どこに隠れたのかは結局分からずじまいだったが(何でこんなタイトルなんでしょう)、やっぱりこういうのは大好きだと思った。こういうのを観るのはダンスとかお風呂とかと一緒でまずは単純に生理的に気持ちがいい。

「こういうの」とは、映画は光の反射なので薄っぺらというかむしろ厚さなんて全然ないはずのに感じる、スクリーン一杯に写し出されるどっしりとした光の厚みとも言うべきフィルムの物質感や粒子が感じられる映画のこと。粒子の蠢きやちょっとしたフィルムのキズの乱舞ってどうしてこうも心を躍らせるのだろう。こういう経験をするたびに、フィルムで撮られた映画は映画館で映写されたものを観るに限ると思ってしまう。

編集室と映画館とストローブ=ユイレの映画の素材の3つの要素(まさに映画づくし)しかないシンプルな構成も見事だったし、何といっても二人の編集室(薄暗い中にモニターが発光していて、映画館みたいだった)に置かれた固定カメラで撮られた長回しの映像がかっこよかった。

この映画はフランスの特異な映画監督ストローブ=ユイレの編集作業を淡々と追ったドキュメンタリーなんだけど、その編集作業がとてつもなく緻密で1フレーム削るか足すかで延々と悩んだりする。つないだ映像をざっと見て、ストローブが「何か違う」とか言うのだけれど、私にはどこが違うのか分からない。でもきっと何かが絶対違っていて、そういう言葉では説明できない感覚の積み重ねでこの人たちの映画は出来ているのだろう。

最初のカットと最後のカットが素晴らしいドキュメンタリーは間違いなくいいドキュメンタリーというのが私の持論なのだけれど、この映画はそのどちらもとても良かった。

(メモ)この後クラブに行ったのだけれど、映画に似ているのは写真ではなくてクラブで踊るダンスなのではないかと思った。シーケンスという点と不可逆的という点において。