鯵のひれの赤は血液の赤

鯵をよく見るとそのひれの付け根はほんのりと血液が透けていて赤く、それは注視しなければ分からない。このように最近の私は所帯染みていて、人が食べるはずの夕食などをその人たちが食べるタイミングに合わせて作ったりしている。

桜がまだ咲かないね、いや、この木の上の方は少し咲きかけているよ、あら、本当、来週には見頃になるかな、などと意味が沈殿せずに言った端からすべっていくような会話を繰り返す。情報の交換ではなく、コミュニケーションのための毛繕い的な会話をするための会話。

二階建ての立方体の中が今の私の世界のほとんどで、少しの本と音楽とインターネットで「外」の世界とつながっている。家族は私の分身のようなものだからそれはすなわち私であって、この数日間、私はこの家の中で膨張を続けているのだ。

私が膨張し、その破片が散らばる家という囲われた空間。そこに私の密度は増えていくわけで、そんな空間でひれの付け根の赤い(と私に確認された)鯵を焼いたりするそして前髪を切る。湖を眺めながら飲む甘くないカフェラテとか好きだけど、安住は今でもあまり好きではなく、高校生の頃に隠し持っていたジャムの瓶に入れたウィスキーのことを考える。

母と祖母と私がいて、その瞬間に私は過去と未来を同時に思う。