風景と心理をスキャンする小説「シンセミア」

去年の読書納めは阿部和重の「シンセミア」だった。

山形県神町という田舎で起こる事件を俯瞰的に書いているのだけれど、とにかく後半のドライブ感がすごい。読んでいてアドレナリンが出るのを実感できる小説はひさびさだった。

物語の中核を担う人たちの一つが、町の青年達がつくったビデオサークルで、彼らは女の人や死亡事故現場の盗撮ばっかりしている奴らだが、小説の文体自体もカメラライクに客観的で、個々のシーンの断片的な集積によって全体が見えるという構造も盗撮っぽかった。叙述するというよりスキャンするという表現がぴったりな気がする。

主要登場人物のほとんどが死んでゆくのに、作者阿部和重に雰囲気が似ている登場人物が最後まで生き残ったのには少し笑ってしまった。

 

シンセミア〈1〉 (朝日文庫)

シンセミア〈1〉 (朝日文庫)