文学

31文字の世界

野暮用で御茶ノ水から神保町まで歩いた。 晴れた日でよく乾いた坂道を下っていく道のり。 書店に入ってなんとなく短歌コーナーへ足が向く。 31文字で世界をつくる短歌は、俳句よりも作為的に思いを込める余地があり、詩よりも言葉そのものの意味の広がりを味…

風景と心理をスキャンする小説「シンセミア」

去年の読書納めは阿部和重の「シンセミア」だった。 山形県の神町という田舎で起こる事件を俯瞰的に書いているのだけれど、とにかく後半のドライブ感がすごい。読んでいてアドレナリンが出るのを実感できる小説はひさびさだった。 物語の中核を担う人たちの…

映画を撮ることの困難 「アメリカの夜」

遅ればせながらずっと気になっていた阿部和重著「アメリカの夜」を読了した。 「アメリカの夜」というフランス語が、絞りやフィルタを調節することで日中に夜のように暗い映像の撮影を可能にする撮影技法だということはこの本の最後のくだりで初めて知った訳…

雪ゆき「椰子・椰子」

子供がいる女の人の一年間の話。モグラが訪ねてきたり子供を折り畳んだりするかなり非現実的な生活でそれを淡々とした語り口で綴ってゆく。川上弘美の中では2番目くらいに好きな小説。 きっと子供とかもほんとはそんざいしてない。まさしく眠っている時に見…

今日のごはんと失いゆくもの「羊をめぐる冒険」「ダンス・ダンス・ダンス」

風邪をひいて寝込んでいた時に久々に読み返してみた。大学生の時の日本文学の講義で、私はこの本についてのレポートを書いた。今まで失ってきたものとこれから失われるものについて。私はこれまでに(たくさんの人と同様に)色々なものを失ってきたから。喪失…

夢の続きを「シュルレアリスムとは何か」

シュルレアリスムとは日本では超現実主義と訳される1924年のアンドレ・ブルトンのシュルレアリスム宣言に始まる芸術運動である。 その中でわたしたちがまっ先に思いつく作家といえばサルバドール・ダリだろう。時計がチーズみたいに溶けてる絵を書く、非現実…

私はやっぱりつけまつげを付けた女にはなれないし、ならない「いづみ語録」

例えば私が、と想像してみる。薄暗い部屋のベッドの上で。 例えば私が、あの黒々としたまつげをつけゴールドのべっとりとしたアイシャドウで囲われたうつろな目をした女(それはまぎれもなく女。少女でも女性でも娘でも母でもなく女。)だったらと。 その想…

ポップカルチャーとしての小説「二〇〇二年のスロウ・ボート」

古川日出男のこの小説は結構好きだ。 村上春樹の「中国行きのスロウ・ボート」の”リミックス”。 小6の彼女の背後にいくつもの映画が重層的に折り重なっているっていう視点とか、語り口にノイズが混じりひっかかる感じとか。 そして、個人的には「あとがき」…